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本学への寄付

マウスの着床現象を体外で再現するモデルを確立

 

発表のポイント

  • マウス子宮内膜を三次元的に模倣した新規子宮内膜オルガノイドを作製しました。?
  • 新規子宮内膜オルガノイドとマウス胚盤胞を共培養することにより、マウスにおける一連の着床現象を体外で再現できるモデルを確立しました。?
  • このモデルを用いることにより、着床現象の解明や着床不全に対する治療法の開発に貢献することが期待されます。

概要

 菠菜导航网,澳门太阳城赌城大学院医学系研究科産科婦人科学講座(藤村 大志 助教、田村 功 講師、杉野 法広 教授)の研究グループは、マウスの着床現象を体外で再現するモデルを樹立したことを世界で初めて報告しました。
 着床注1とは、胚盤胞注2が子宮内膜注3へ接着?浸潤し、子宮内膜の脱落膜化注4とともに胎盤注5を形成するまでの一連の現象です。ヒトの着床は未だ不明な点が多く、着床が正常に起こらない着床不全の患者様に対する有効な治療法は確立されていません。着床現象の解明、着床不全の治療法の確立のためには、着床現象を体外で再現し、詳細に解析することが必要不可欠です。しかしこれまでに、体外で一連の着床現象を再現したモデルは報告されていません。研究グループはマウス検体を用い、体外で一連の着床現象を再現することが可能な改良型子宮内膜オルガノイド注6を作製しました。この改良型子宮内膜オルガノイドとマウス胚盤胞を培養皿上で一緒に培養することにより、体外で一連の着床現象を再現するモデルを世界で初めて報告しました。また、体外で着床した胚盤胞の細胞は胎盤の一部である絨毛細胞注7へ分化していること、子宮内膜は妊娠時の変化である脱落膜化を起こしていることを示しました。本研究成果は、着床現象を体外で模倣する新たなモデルとして、着床現象の解明や着床不全に対する治療法の開発のための新たなプラットフォームとなることが期待されます。
 本研究は、文部科学省科学研究費補助金による研究課題[オルガノイド法を用いたミニ子宮内膜作製と子宮内膜再生医療の展開:JP20H03825]、その他5件(JP21K09542, JP24K12579, JP23K15838, JP23H03043, JP22K20741)の支援を受けて行われました。
 本研究成果は、日本時間2025年5月14日(水)午後7時(協定世界時2025年5月14日(水)午前 10時)に科学誌「Development 」に掲載されました。

背景

 着床とは、受精卵が胚盤胞へと分化したのちに子宮内に侵入し、子宮内膜に接着?浸潤、胎盤形成に至るまでの一連の現象です(図1)。子宮内膜上皮細胞、子宮内膜間質細胞は着床の場を提供し、卵巣から分泌される女性ホルモンの影響により受精卵を受け入れることができる状態に変化します。不妊症の中には、良好な胚盤胞を移植しても妊娠に至らない、“着床不全”の状態にある患者様が一定数存在しますが、有効な治療法は確立していません。また、着床現象は母体の子宮内でダイナミックに起きる現象であるため、これまでに、その過程を直接観察することはできておらず、着床現象の詳細は明かされていません。研究グループは、着床現象を研究するには着床現象を体外で再現することが重要であると考え、三次元の子宮内膜を体外で作製することに注目しました。
 2017年に子宮内膜上皮細胞を用いた三次元培養「子宮内膜オルガノイド」が報告されましたが、これは子宮内膜を構成する細胞のうち、子宮内膜上皮細胞のみを有している構造体でした。また、実際の着床過程において、胚盤胞は子宮内膜上皮細胞の管腔側から接着-侵入していきますが(図2)、既報のオルガノイドでは管腔側が内腔面を向いているため、上皮細胞と胚盤胞の接着現象を再現することは物理的に不可能でした(図3. 左)。さらに、オルガノイドはマトリゲルといった細胞外基質の中に包まれた状態で三次元構造を維持しているため、これも胚盤胞と上皮細胞が直接的に接着することを困難としていました。つまり、これまで体外培養において着床現象を再現することができるモデルは確立されていませんでした。

研究成果

 研究グループは体外培養において着床現象を再現するために、マウスを用いた「改良型子宮内膜オルガノイド」を作製しました(図3. 右)。これは、(1)子宮内膜上皮細胞と子宮内膜間質細胞を有しており、(2)子宮内膜上皮細胞のapical side(子宮管腔側、胚盤胞が接着する側)はオルガノイドの外側面を向いており(apical out:外側から着床可能)、(3)マトリゲルといった細胞外基質を必要としない、という特徴を持っており、先に述べた問題点を克服していました。
 研究グループは、この改良型子宮内膜オルガノイドを用いてマウス胚盤胞と共培養を行い、着床の4段階(接着:attachment, 陥凹:invagination, 貪食:entosis, 浸潤:invasion)をリアルタイムで観察することに成功しました(図4)。

 また、女性ホルモン刺激の有無によって着床率に有意な差異が生じることを見出し、改良型子宮内膜オルガノイドは女性ホルモン依存的な子宮内膜機能を有していることを明らかにしました。さらに、着床後の胚盤胞由来細胞は絨毛細胞へと分化し(図5(A))、同時に改良型子宮内膜オルガノイド内の間質細胞が脱落膜化子宮内膜間質細胞へと分化している(図5(B))ことを明らかにしました。これらの結果は体外で着床現象が起きたのちに、細胞が次の段階へと分化したことを示しています。

 以上の結果から、本モデルを体外で着床現象を再現することができるモデルとして発表しました。着床現象の多くは未だに謎に包まれていますが、本モデルを用いることで着床現象を体外で詳細に観察することができるようになり、着床のメカニズムを解明する手がかりになると期待しています。また、着床現象を体外で操作することが可能となり、着床不全の原因解明や治療法の開発のためのプラットフォームとして、着床研究のさらなる発展に寄与すると考えています。

 

論文題目と著者

  • 論文タイトル:Establishment of an in vitro implantation model using a newly developed mouse endometrial organoid(新規子宮内膜オルガノイドを用いたin vitro着床モデルの確立)
  • 著 者:Taishi Fujimura, Isao Tamura, Azumi Yoshimura, Toshihide Yoneda, Hitomi Takasaki, Amon Shiroshita, Yuichiro Shirafuta, Shun Sato, Norihiro Sugino(藤村 大志、田村 功〔責任著者〕、吉村 安寿弥、米田 稔秀、髙﨑 ひとみ、城下 亜文、白蓋 雄一郎、佐藤 俊、杉野 法広)
  • 掲載誌:Development
  • 掲載日時:2025年5月14日(水)午後7時(日本時間)
  • D O I:10.1242/dev.204461

用語解説

注1. 着床
受精卵が胚盤胞へと分化した後に、子宮内の子宮内膜に接着し、子宮内膜の中に侵入すること。着床が完了することは、妊娠成立における最初のステップである。

注2. 胚盤胞
受精卵が細胞分裂を繰り返しながら成長し、子宮内膜に着床する直前の段階の胚。内部には将来胎児になる細胞の塊(内部細胞塊)と、胎盤になる部位(栄養外胚葉)が存在している。

注3. 子宮内膜
子宮の内側を覆う粘膜の層。管腔上皮、腺上皮、間質、血管から成り立ち、妊娠に備えて厚く柔らかくなる。胚盤胞が着床する場であり、着床後は胎盤が形成される基盤となる。

注4. 脱落膜化
子宮内膜が胚盤胞を受け入れる準備として、子宮内膜の間質細胞が脱落膜化という細胞の形態学?機能的分化を遂げること。この過程は妊娠の成立?維持に必須な現象であり、脱落膜化障害は着床不全の原因となる。

注5. 胎盤
胚盤胞が子宮内に着床した後に形成される、胎児と母体をつなぐ重要な臓器。胎盤を通して胎児と母体は酸素や栄養の受け渡しを行う。

注6. オルガノイド
生体内臓器の構造と機能を一部再現した三次元構造体。従来の研究手法では難しかった、臓器の複雑な構造や機能をより深く理解するためのツールとして注目されている。

注7. 絨毛細胞
胎盤を構成する細胞。母体と胎児の間で栄養や酸素の運搬、ホルモン産生などの役割をもつ。

 

問い合わせ先

  • (研究に関すること)
    菠菜导航网,澳门太阳城赌城大学院医学系研究科産科婦人科学講座
    助教 藤村 大志(ふじむら たいし)
    TEL:0836-22-2288
    E-mail:taishif@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp )
  • (報道に関すること)
    菠菜导航网,澳门太阳城赌城医学部総務課広報?国際係
    TEL:0836-22-2009
    E-mail:me268@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp )
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